ナレーションの間だけ、BGMの棒がすっと自動でしぼむ。手動でフェーダーを触らなくても、この一手間があるだけで言葉の通り方はここまで変わる。
BGM/SEの基本構造(レイヤー・ダッキング)
動画の音は「BGM(土台)」「SE(効果音)」「ナレーション・セリフ(主役)」の3層で考える。主役のセリフが鳴っている間だけBGMの音量を自動で下げる処理を「ダッキング」と呼び、これがあるかどうかで聞き取りやすさが大きく変わる。編集ソフトのサイドチェインコンプレッサー(別の音、ここではセリフの音量に反応して自動でBGMを抑える仕組み。「サイドチェイン」は反応のきっかけになる音のこと)や、音量オートメーションで実現する。音量を扱う前提として、音の大きさは「dB(デシベル)」という対数の目盛りで測る。目盛りが等間隔でも実際の振幅は等間隔では増えない点が、はじめは直感に反する。
音の高さは全段そろえてあるので、変わるのは大きさだけ。段の間隔(dB)は一定でも、振幅は毎段おなじ割合でかけ算で縮む。音が出ます。
段の間隔をいくつに変えても、1段=1回のかけ算。-6dBなら毎段およそ半分、-20dBなら毎段10分の1。dBは「量」ではなく「割合」の目盛りだから、-3dBという指示は状況が変わっても同じ効き方をする。
大小の差が激しい素材は、コンプレッサーでダイナミクスを均すと聞きやすくなる。スレッショルドを超えた大きい音だけをレシオの比率で抑え、全体の音量差を縮める処理で、ダッキングのサイドチェインとも地続きの考え方だ。
入力メーターの山が、出力では低く揃う。圧縮量メーターが振れているぶんだけ大きい音が抑えられている。大きい音を抑えて全体の音量差を詰める——ダイナミクス処理でやっているのは、突きつめればこれだけだ。
フリー音源のジャンル別リスト
用途別に探す場所を分けると早い。BGM(ループ楽曲)はDOVA-SYNDROME・甘茶の音楽工房、効果音は効果音ラボ・OtoLogic、環境音はフリーサウンド系のアーカイブが定番。商用利用可否・クレジット表記の要不要はサイトごとに条件が異なるため、素材ごとにライセンス文言を必ず確認する。素材を集めたら、そのまま重ねるのではなく空間や時間軸への馴染ませが要る。乾いた効果音にリバーブ(残響)を少し足すだけで、シーンの空間に置かれた音として自然になじむ。
同じ素材でも残響を足すだけで「広い空間で鳴っている」印象になる。音が出ます。
同じクリック音でも、残響を足すと「広い空間で鳴っている」印象に変わる。乾いたSEと環境音が浮いて聞こえるときは、両者に同じくらいの残響をまぶしてやると、同じ部屋で鳴った音として溶け合う。
BGMを土台に効果音やカットを置くときは、曲のテンポ(BPM)に合わせると気持ちよく揃う。拍の間隔を基準にSEやカット点を配置するだけで、なんとなく置いたときとは別物のリズム感が出る。
「タップでテンポ」を曲に合わせて数回押すとBPMが求まる。この間隔がカットやSEを置く基準になる。音が出ます。
叩いて割り出したBPMから、1拍の長さ(秒)が決まる。その拍の位置にSEやカット点をそろえて置くだけで、なんとなく並べたときとは別物のノリになる。まず素材のテンポを知る、が編集でリズムを揃える出発点。
合成音声(TTS)の作り方と選択肢
ナレーションを人間の声なしで作る場合、テキスト読み上げ(TTS)サービスを使う。感情表現の幅・日本語の自然さ・商用ライセンスの範囲がサービスごとに異なるため、ナレーション量が多い動画ほど事前に数社を聞き比べる価値がある。抑揚を細かく指定できるSSML(読み上げ用マークアップ)に対応しているかも選定軸になる。
声質はOS・ブラウザ内蔵の音声に依存します。速度とピッチの変更は次の再生から反映されます。
速度とピッチは、どのTTSサービスでもSSMLなどで最初に触れる基本パラメータ。この2つだけでも声の印象はここまで動く。だからこそ、同じ原稿を数社に読ませて聞き比べる手間が効いてくる。
生成したナレーションをBGMと重ねると、こもって聞き取りにくいことがある。そんなときはEQ(イコライザ)で帯域を整理する。人の声が乗る中域を残し、BGMの低域や耳障りな高域を削るだけで、同じ音量でも言葉が前に出てくる。
カットオフより向こうの帯域がカーブどおりに削れ、音色が変わる。ナレーションとBGMがぶつかる帯域を片方から削ると、音量を上げなくても両立できるようになる。
音声統合の実装パターン
Web上で動画に音声を合成する場合は、Web Audio APIで複数トラックをミックスしてからMediaRecorderで書き出す構成が基本。編集ソフトを使う場合も考え方は同じで、トラックごとに音量・タイミングを独立して調整できる構造にしておくと、後からの差し替えが容易になる。
このミキサーの中身は、トラックごとに1つずつ置いたWeb Audio APIのGainNode。1本のフェーダーを動かしても他は動かない——それが「トラックごとに独立して調整できる構造」の正味の意味だ。だから後から1トラックだけ差し替えても、他の音量は崩れない。
各トラックの音量を時間に沿って動かせば、フェードイン・フェードアウトになる。GainNodeのゲインを直線的に動かす(linearRampToValueAtTime)か、指数的に動かす(exponentialRampToValueAtTime)かで、同じ長さでも聞こえ方が変わる。耳の音量感覚は対数的なので、フェードは指数カーブのほうが自然に感じられることが多い。
直線カーブは終盤で急に消える/現れる感じがし、指数カーブはなめらかに聞こえる。どちらのゲイン曲線を何秒かけて予約するか——フェードの実装で決めているのは、結局そこだけだ。
仕上げの定位も同じGainの延長で、StereoPannerNodeを1つ挟めば音を左右に配置できる。画面内の音源の位置に合わせてSEを振ると、映像と音の一体感が増す。
パンを振ると、同じ音でも鳴っている方向が変わる。上下(音量)だけで組んでいた画に、左右という軸がもう1本増える。どこで何が鳴るか——ミックスはその配置まで含めて決める作業だ。