テンポを上げ、音を増やすほど気持ちが急いてくる。並んでいる5音はどれも同じままなのに、だ。理屈は後回しでいい。まずこの手触りを覚えておくと、あとから出てくる言葉が腑に落ちる。
テンポ・音数が与える印象の違いを知る
速いテンポ・多い音数は緊張感や高揚感を、遅いテンポ・少ない音数は落ち着きや不安感を生みやすい。「なんとなく合う曲」を探す前に、この2軸だけでも意識すると、求めている雰囲気を言葉にしやすくなる。テンポや音数以外にも、印象を大きく左右する要素がある。まずは調性(長調・短調)と音色(波形)を、耳で確かめてみよう。
明るい/暗いという最も大きな印象差が、第3音のたった半音1つで反転する。テンポや音数を変えなくても、この一箇所で曲の感情はここまで動く。
波形を切り替えると、同じ旋律が「柔らかい」にも「鋭い」にも化ける。効いているのは倍音——基音に重なって鳴る高い成分——の量で、これが多いほど音は硬く尖って聞こえる。
場面ごとに欲しい感情をAIに伝える語彙
「BGMを作って」より「プレイヤーが緊張感を持ちつつ集中できる、テンポ100前後で音数の少ない曲」のように、欲しい感情とテンポ・音数の目安をセットで伝える方が、狙った曲に近づく。「明るい/こもった」「近い/広い」といった形容も、実は音の物理量に対応している。その対応を耳で掴んでおくと、AIに渡す言葉が具体的になる。
「明るい」「こもった」の差は、フィルタを開いて高い倍音を残すか、閉じて削るか。気分を表す言葉の裏には、そのまま回せるつまみが一本ある、と考えていい。
残響を短く詰めると音は目の前に立ち、長く伸ばすと広い空間の奥へ遠ざかる。旋律ではなく「どこで鳴っているか」を指定する言葉。これも立派な注文のひとつだ。
既存のSEとBGMの役割分担
BGMは持続する雰囲気を作り、SE(効果音)は瞬間の出来事に反応する。両方が同じ役割(例えば両方が「盛り上げ」を担おうとする)を果たそうとすると音が渋滞するため、BGMは背景、SEは前景という役割分担を意識する。
まずBGMを流し、途中でSEを鳴らしてみる。次に役割を切り替えてもう一度。
BGMが前に出すぎると、SEを鳴らしても「今なにか起きた」という手応えが薄れてしまう。ぶつかり合った音同士が互いを飲み込むからだ。背景はBGM、前景はSE。この住み分けが要る理由が、耳で追える。
役割分担のもう一つの正体は「周波数帯の棲み分け」だ。BGMとSEが同じ高さの帯を取り合うと、音量では負けていなくても、片方が物理的にもう片方を覆い隠す(マスキング)。帯さえ分ければ、両方が同時に鳴っても両立する。
BGMを流し、帯域スライダーを動かしながらSEを鳴らして比べてみる。
BGMの帯をSEにぶつけると、音量を落としていないのにSEが聞こえなくなる。棲み分けは、時間の前後だけの話ではない。周波数という「高さの場所」も空けてやる必要がある。
「気持ちいい」を言語化するチェックリスト
操作に対して音がすぐ返ってくるか(遅延の有無)、音量が場面に対して大きすぎないか、同じ音が連続しても耳障りにならないか。「気持ちいい」という曖昧な感覚は、この3点に分解すると具体的な調整対象になる。
「気持ちいい」の正体は ①遅延 ②音量 ③連続時の耳障りさ の3つ。1つずつ崩して連打すると、どこで不快になるかが分かる。
遅延を200msに上げただけで、同じ音が急に「気持ち悪く」なる。ぼんやりした快・不快も、遅延・音量・揺らぎの3つに切り分けてしまえば、それぞれ手で直せる調整項目になる。
同じ通知音でも、どの音域で鳴らすかで「かわいい/重厚」「軽快/威圧的」と印象が変わる。場面に合う「気持ちよさ」は、音そのものだけでなく音域の選択でも決まる。
高い音域なら軽くかわいく、低ければ重く身構える。しかも「良い音域」は決まっていない。場面を切り替えたとたん、さっきしっくり来ていた高さが急に浮いて聞こえるはずだ。
最後に、緊張と弛緩そのものを作る道具——音程を触ってみよう。2つの音の距離(協和か不協和か)は、そのまま安心と不安の温度になる。ここまでの要素すべての土台にある感覚だ。
完全5度やオクターブは寄り添うように落ち着き、短2度やトライトーンはぎりぎりと張り詰める。「不安な空気がほしい」という注文も、突き詰めれば2音の距離をいくつにするか、という一点に行き着く。
AIに投げるプロンプト例
ゲームのBGM・効果音の方向性を相談したいです。 - 場面: [例: ボス戦、ホーム画面、学習アプリの正解音] - プレイヤーに感じてほしい感情: [ここに記入] その感情に合うテンポ・音数・音色の方向性を提案してください。BGMと効果音、それぞれの役割分担も含めて教えてください。